DynaFlash v2とポストリアリティ

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“What is real? How do you define real?” (Matrix 1999)

単純な問いですが,深遠な問いでもあります.近年,その答えを形にすることがさらに難しくなってきています.仮想現実,拡張現実,複合現実,シミュレーテッドリアリティ,人工知能,ブレイン・マシン・インタフェース,不気味の谷,トランスヒューマニズム,サイバーパンク,ハイパーリアル,ポストトゥルース….テクノロジー,フィクション,哲学,社会の各分野において次々に現れるこれらの思想は,現実と非現実の境界を茫漠とさせ続けています.世界は“Post Reality”の時代に突入しつつあり,我々もそれを受け入れる準備ができつつあると考えられます.

このように変化し続ける世界のもと,我々も1つのチャレンジを試みています.現実と非現実を眼の前で融合し,新しくて自然な“The Reality X”を作り出すことはできるのか?この目標に向けて,我々は光を操作することにしました.視覚による認識が,光/モノ/ダイナミクス/知覚の4者の相互作用からなると考えたとき,その根源たる光を人間の知覚限界を超えた領域で操り,現実を操作することは有望なアプローチであると考えられます.この構想のもと,秒間1000回の速度で映像を切り替えるモノクロプロジェクタを開発し,同じ速度で駆動するセンシング系と連携させ,変形・運動するフィジカルな物体にデジタルなアピアランスを融合させる試みを実現してきました.

今回,このチャレンジを次のレベルにアップグレードさせるために,新たに947fpsで8bitのカラー映像を切り替えることができる新型の高速プロジェクタ DynaFlash v2 (3-LED+1-DMD)を実現しました.さらに,10台のカメラを駆使し,高速かつ広範囲で非剛体変形を3次元で認識可能な新しいトラッキングシステムを開発しました.これらを連携したダイナミックプロジェクションマッピングは,カラフルな非現実のテクスチャを現実に融合させるだけには留まりません.対象表面の3次元的な構造や動きに応じて,投影像を適応的にコントロールすることで,現実とは異なる素材の光沢や凹凸を自在に再現させることが可能となっています.

物理現象としてみた場合,このセンシング・ディスプレイの介入がもたらす状態は現実とは乖離しています.しかし,我々の知覚にとっては,光/モノ/ダイナミクス/知覚の整合性に矛盾は少ないものとなっています.実際,下記の動画を見て頂ければ,我々がそこに見いだすものを現実ではないと切り捨てることが,そこまで容易ではないと感じると思います.

DynaFlash v2 and Post Reality.現実と非現実の融合.現実とはなにで,非現実との境界はどこにあるのか?混沌と秩序を両立する新しい現実世界の創造へ向けて,今回の成果が単なるテクノロジーの性能進化だけに留まらない意味ときっかけをもたらすことを期待しています.


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研究メンバー

渡辺義浩, 遠藤宣明, 天野光, 加藤俊幸, 成田岳, 松本卓也, 石川 正俊